iPS細胞は、たった一つの細胞から個体を再生することを可能にした偉大なる発見です。この発見によっ て、生命の二面性があらためて浮き彫りになりました。ゲノムが、すべての情報を世代を越えて伝えると いう非常に堅牢な側面。一方で、その情報が多様な細胞を生み出す可塑的な側面も持っています。堅牢性 と可塑性、この二面性こそが、40億年という長い間、生命の連鎖が一度も途切れずに脈々と続いてきた理由です。

本講義では、ゲノムから生命活動にいたる情報の制御を軸に、個体の発生、細胞内タンパク質の入れ替え、 iPS細胞を用いた再生医療の可能性、生体に備わる時計、脳神経の活動の解析を通して、堅牢性と可塑性と いう一見矛盾する性質を内包した生命の営みについて、考えてみたいと思います。

生物のロバストなかたちづくり

第1回  10/7 組織を正確に刻む分節時計

第2回  10/15 多様な形を創出する発生のモジュール性

武田洋幸(理学部)

生き物にはすべて固有のかたちがあり、それは実に多様です。多細胞生物では、かたちづくりは一つの受精卵から始まります。 今回はノイズ耐性とモジュール構造に注目して、脊椎動物の基本的発生原理をゼブラフィッシュとメダカの研究を例に解説し ます。

生命システムの「時間」について

第3回 10/21 生命システムの「時間」について

上田泰己(医学部)

生命システムの「時間」は3つの性質を持ちます。1複雑化:高次の生命システムを構成する様々な細胞はほぼ一つの細胞か ら生じます。複雑さの源泉となる差異はどのように生成し、記憶・学習されるのでしょうか? 2蓄積・再生:生命システム には一日・一年・一生のように単位を持つ時間があります。分子素子の時間単位をはるかに超える時間は、どのようにカウン トし巻き戻されているのでしょうか?3伝達:生命の「時間」は動的で柔軟なものであり、ゲノムを通して次世代に伝えられ る堅いものでもあります。柔軟で堅固な一見相矛盾するような性質は、「素子」と「回路」によってどのように実現されてい るのでしょうか? 生命システムの時間の現在を紹介し、議論します。

入れ替わっている私たちの体

第4回 10/28 入れ替わっている私たちの体

水島 昇(医学部)

私たちの体は知らないうちにどんどん入れ替わっています。細胞そのものも、細胞の中身も入れ替わっています。そうするこ とで、私たちは新鮮さを保ちつつ、さまざまな環境変化に柔軟に対応することができます。昔から漠然と考えられてきた「新 陳代謝」を、発生、栄養、品質管理、がん、神経変性疾患などと絡めて現代科学の視点で解説します。

樹の太るしくみ

第5回 11/5 樹の太るしくみ

福田裕穂(理学部)

進化の過程で、植物は維管束という組織を使って横方向に生長する(太る)能力を獲得しました。この能力は、屋久杉のよう な樹木では何千年という時を越えて維持されます。本講義では、この能力を、維管束幹細胞の増殖と分化のバランスを制御す るシグナル伝達から理解することを目指します。

匂いを憶える仕組みとは?

第6回 11/11 匂いを憶える仕組みとは?

多羽田哲也(分生研)

匂いや味によって、それに関連づけられた記憶を思い出すーーープルースト効果と呼ばれるこの現象は記憶の仕組みを解き明 かすモデルとして盛んに研究されています。匂いを嗅ぐとき、そしてその記憶を思い出す時、脳の神経細胞はどのような活動 をしているのでしょうか。小さな昆虫の小さな脳を覗く事によって明らかにされつつある記憶研究の一端を紹介します。

脳の動作原理を考える

第7回 11/18 脳の意味論

第8回 12/2 メゾスコピックな視点から眺める脳

池谷裕二(薬学部)

脳について考えるとき、私たちは自分の脳を使って考えなくてはなりません。そんな自己言及の宿命からくる「独りよがり」 な視点を避けながら脳の動作原理を考えなければ、脳の本当の姿は見えてきません。脳が存在する目的はなんでしょうか。コ ンピュータとの違いはなんでしょうか。脳回路のカラクリの最新知見について、できるだけ噛み砕いて説明します。

キメラ動物を用いた臓器の作出

第9回 12/9 キメラ動物を用いた臓器の作出

中内啓光(医科研)

臓器を作って移植を待っている患者さんに提供することは、再生医療の究極の目標の一つです。しかし腎臓や膵臓といった実 質臓器の再生は、遠い将来の夢と考えられています。試験管の中では難しくても、動物の個体内ならばヒトの臓器も作れるか もしれない?そういった発想のもとに始まった臓器再生の研究について紹介します。

命のプラットフォーム染色体

第10回 12/16 ゲノムをコピーする

第11回 1/15 親の因果は子に報いるか? エピジェネティクスを考える

白髭克彦(分生研)

ゲノム塩基配列が細胞から細胞へ正確にコピーされ伝承される事は細胞レベルのみならず、個体レベルでの生命の継続性にと っても必須です。一方、エピジェネティクスとはDNAの配列変化を伴わずに細胞から細胞へ、世代から世代へ継承されうる 遺伝子発現制御メカニズムのことを指します。これらのメカニズムの破綻は癌化、老化、そして様々な生活習慣病の原因とも 言われています。遺伝情報の恒常性を担保する機構と、可塑性を生み出すメカニズムの一つとしてのエピジェネティクスにつ いて学びます。

脳を作る神経幹細胞のふるまい

第12回 1/20 脳を作る神経幹細胞

第13回 1/27 成体の神経幹細胞

後藤由季子(分生研)

私たちの複雑な脳は、胎児の間にどうやって正確に作られるのでしょうか。また大人の脳でも毎日新しく産まれている神経細 胞は、そもそも何に使われていて、そしてどうやって制御されているのでしょうか。これらの疑問に、「神経幹細胞」(様々な 神経細胞を作り出す元の細胞)からの切り口で迫りたいと思います。