皆さんの多くは、高等学校で「世界史」を学習したはずです。大学入試の科目として「世界史」を選択した人も多いでしょう。ですから、ちょうど数学の定理や物理の法則のように、高校生が世界中で同じ世界史を学んでいるのだと信じているのではないでしょうか。しかし、実はそうではありません。

世界史という名前の科目は、日本や中国など東アジア諸国に特徴的にみられ、欧米や中東などでは単に「歴史」と呼ばれる科目しかありません。また、大筋は同じだとしても、国によって、教科書の内容は微妙に異なっています。世界史は、決して一つではないのです。なぜでしょう。

世界史の理解は、自分たちの生きる世界をどう認識するかということ、すなわち世界観と深くかかわっているからです。現代世界でも、人々の世界観は同じではありません。まして、過去においては、地域や時代によって様々な世界観があり、従って、世界史の理解の仕方も一様ではありませんでした。この講義では、現代と過去における多様な世界観と世界史理解を紹介し、皆さんが高校で学んだ世界史がどのようにして成立したのかを解説します。これは、世界史を生み出す歴史学という学問の歴史を俯瞰してみせる連続講義です。また、この機会に、現代の私たちにふさわしい世界史理解はどのようなものかを一緒に考えてみましょう。

各講義概要 第1回 – 第13回

世界の中の日本の世界史

羽田 正(東洋文化研究所) 

現代世界の各国で教えられている世界史や歴史の例をいくつか取り上げ、そこに見られる共通点と相違点を確認する(第1回)。また、共通点とみなしうる過去の見方(近代歴史学)が、どのような過程で生まれ世界に広まって、日本でも採用されたかを解説する(第2回)。

第1回

10月15日(月) 世界の世界史

第2回

10月22日(月) 近代歴史学と世界史

近代的学問としての世界史

島田竜登(文学部) 

近代社会において学問として営まれてきた歴史学が、世界史をいかに解釈してきたのかを考えてみたい。まず、近代歴史学の基礎たる実証研究の特徴を説明する。ついで、近代歴史学への批判として登場した史的唯物論といった法則性を重視する歴史研究を紹介し、両者の方法論上の限界を指摘する(第3回)。これらの歴史学の手法を西洋から導入した日本の歴史家たちは、西洋と日本、東洋を比較史的に考察することで、苦心して世界史の理解にこれまで努めてきたことを明らかにする(第4回)。最後に、近代社会においてなされてきた従来の世界史研究の諸問題を克服し、現代に生きる我々にどのような世界史の見方がありえるかを模索するため、グローバル・ヒストリーなどの近年の試みを紹介する(第5回)。

第3回

10月29日(月) 実証すること、法則を見出すこと

第4回

11月5日(月) 比較史のなかの日本・アジア

第5回

11月12日(月) 近代を超越して新たな世界史を描く

日本における「日本史」-「自国史」を語るいとなみ

松井洋子(史料編纂所) 

歴史を語るいとなみは、我々は何者か、どこから来て、どこへ行こうとするのか、という自己認識の問いと分かち難く結びついている。自と他を区別しその違いを強調することは、現行の「世界史」の問題点の一つとされるが、それは近代歴史学のみに固有の特徴ではない。「くに」の範囲や定義は一様でないにせよ、支配・統合の拠りどころとして、共有する過去の物語である「自国史」が語られてきたことは認識しておく必要があろう。第6回では、古代以来、「自国史」としての日本史はどのように語られてきたのかを概観する。第7回では、明治維新という大変革の後、新しい国家体制のもとで近代歴史学を学びつつ行なわれようとした修史事業について、史料編纂所のあゆみにも触れつつ紹介する。

第6回

11月19日(月) 前近代日本における歴史叙述

第7回

11月30日(金) 明治政府の修史事業と史料編纂所

「正統」の歴史と「王統」の歴史

杉山清彦(教養学部) 

わが国をふくむ漢字文化圏においては、『史記』以来の「正史」をはじめとする膨大な歴史書が編まれ、蓄積・共有されてきた。他方、草原を駆けめぐる遊牧民が活動の主体となってきた中央ユーラシア世界は、定住農耕社会の人びとから「歴史」がないものとみなされてきた。では、漢字文化圏の中核をなしてきた「中国」の世界観・歴史観とは、どのようなものだったのだろうか。また中央ユーラシアの遊牧民やオアシス民は、本当に歴史をもたなかったのだろうか。この講義では、中華の人びとと中央ユーラシアの人びとが、それぞれ自分たちの生きる世界とその来し方をどのように理解し、説明してきたか、それが近代においていかに変容を迫られたか、という問題を、現在の歴史問題まで視野におさめながら論じたい。

第8回

12月3日(月) 「中華」の世界観と「正統」の歴史

第9回

12月10日(月) 「中国史」の創出と「歴史認識」

第10回

12月17日(月) 中央ユーラシアにおける世界観と歴史観

ヨーロッパにおける「歴史」の誕生

西川杉子(教養学部) 

中世のヨーロッパ人にとって、「過去」はキリスト教信仰や伝説と密接に結びついたものであり、過去の時間も聖書を尺度にして計られていた。このような過去意識からの脱却の試みは、近世半ばに「古物収集家」によって始められるが、彼らの過去へのアプローチは、現在の私たちの「歴史学」理解とはかけ離れたものであった。この講義では、まず、近代歴史学成立以前に、ヨーロッパの人々がどのように「過去」をみていたのかを紹介する。その上で、19世紀のナショナリズムの時代に、歴史学が学問として成立する一方で、芸術作品やナショナル・モニュメントを通して、どのようにして「国民の歴史」が創造されていったのかを概観する。

第11回

1月15日(火) 近代歴史学以前の「歴史」

第12回

1月21日(月) 近代ナショナリズムと「歴史」の創造

まとめ 新しい世界史へ

後藤春美(教養学部) 

第13回

1月28日(月) まとめ 新しい世界史へ