21世紀は「生命科学」の時代とも言われている。それほど生命科学は20世紀から21世紀にかけて急速な発展と変化がみられてきた。その一つはヒト を含めて生命を“分子の言葉”で理解することが急速に進んできて可能になっていることによる。

ヒトを含めたモデル生物のゲノム解読、細胞内情報伝達のしくみ、形づくりに関する遺伝子の解明、プロテオミクス、脳科学の解明などである。もう一つは、生命科学が今までの医学、農学、薬学、理学(生物科学)など、いわゆる生物科学という枠を超えて工学、教育学、経済学、情報学、環境学、認知学など、学際的かつ総合科学として大きく発展している。

そのような生命科学が大きな拡がりをもち、発展と変化の中で生命科学をどのように俯瞰的にみていくのかは正直、非常に大きな課題である。この学術俯瞰講義では、個体 の発生を通しての形づくりと器官形成、分子モーターからみた生命、ウイルス学、ゲノム科学と進化などに焦点をあて て、「生命」について俯瞰してみたい。各生物がもつ生命の歴史とそこに秘められた奥深さと美しさ、構造と機能の調和、ウイルスと人類の戦いのドラマなどを通して生命のもつ多様性と一様性など、「生命知」について語ってもらう。


受講生の感想

今まで教科書であたり前のように教えられてきたことが、とても素晴らしく、複雑でおもしろい ことだと知りました。(浅島先生)

「学問は夢である」という言葉に感銘を受けました。(浅島先生)

分子というと、何とも無機的な感覚を持っていましたが、実は躍動的に目的を持って動いており、しかも、それが自らの体の中で絶えず行われているかと思うと、驚嘆の一語に尽きました。(廣川先生)

ウィルスという恐ろしい対象を、きちんと向き合うことで分析し、病気を抑えようとし、ともすれば逆にその性質を利用してやろうというその姿勢が、将来研究者を目指す身としては大変良い刺激になりました。
(野本先生)

ヒトゲノムの解読で終わらない、広大な未知の領域を感じた。
(黒岩先生)


各講義概要 第1回 – 第13回

TAレポート にはTeaching Assistant学生による講義レポートがあります。

浅島 誠 「発生生物学からみた生命科学」

東京大学大学院総合文化研究科 教授

一つの受精卵からどのようにして構造と機能を持った器官(臓器)や組織を形成し、統一のとれた決まった形の親になるのか。その生物の形づくりと器官形成のしくみが次第に分子の言葉で語ることが可能となりつつある。そこには、従来の実験発生生物学から大きく変貌した分子発生生物学や器官形成学などがある。それらを支えているものは遺伝子の発現調節のメカニズム、核と細胞質の相互作用、細胞間相互作用、組織間相互作用などであるが、その底辺には重要な勾配や極性、位置情報や場の概念やシステム系がある。現代の生命科学の面白さと奥深さと美しさは動物の発生という現象の中でダイナミックかつドラマチックな変化を時間経過の中に見ることができる。

第1回

10月16日(月) 卵から親への形づくりのメカニズム
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第2回

10月23日(月) 生体情報システムとネットワークづくり
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第3回

10月30日(月) 器官形成のしくみ
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第4回

11月6日(月) 再生の科学
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廣川 信隆 「分子モーターから観た生命科学」

東京大学大学院医学系研究科長

私たちの体を構成する神経細胞を始めとするすべての細胞は、合成した蛋白質を様々な膜小器官や、蛋白複合体として、または遺伝子そのものを多くのモーター分子群により微小管のレールの上を巧妙に送り分けている。この細胞内物質輸送の分子機構は、細胞の重要な働きの基盤となるだけでなく、脳の発生、神経回路網の形成、記憶、学習などの脳の高次機能、体の左右の決定や腫瘍の抑制など多彩かつ重要な生命現象を司っている。また、生物学の重要な課題である分子モーターの作動機構についても明らかになってきた。この講義では、分子モーターを視点として生命を俯瞰し、総合科学としての生命科学の最先端を分子の言葉で紹介する。

第5回

11月13日(月) 脳・神経の働きと分子モーター
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第6回

11月20日(月) 体づくりと分子モーター
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第7回

11月27日(月) 分子モーターはどのように動くか
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野本 明男 「ウイルスからみた生命科学」

東京大学大学院医学系研究科 教授

ウイルスは、ヒトなどの宿主に感染し、はじめて増殖が可能となる。このようなウイルスと宿主は必然的に自然生態系を形成し、共に進化してきた。

両者の関係は調べれば調べる程絶妙であることが分かる。ウイルス感染現象の分子レベルの解析は、生命科学領域に新たな課題を提出し続けている。また、次々と登場する新たなウイルスに人類は対応していかねばならない。ひたすらウイルスを知り、ウイルスに学ぶ姿勢が大切である。


第8回

12月4日(月) ウイルスと生命体
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第9回

12月11日(月) ウイルス感染の原理
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第10回

12月18日(月) ウイルスと人類の戦い
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黒岩 常祥 「ゲノムから見た生命科学」

東京大学名誉教授(大学院理学系研究科)

我々の身体は60兆個の細胞からできている。細胞内には、独自のゲノム(DNA)を含む核やミトコンドリア(更に植物では葉緑体)があり分裂・増殖し、遺伝する。ミトコンドリアと葉緑体は「リング構造」のナノマシーンによって分裂し、それらのゲノムは、受精の際、「母性遺伝」により子に伝達される。解読した全ゲノム情報から、これら分裂マシーンや母性遺伝のしくみ等、核ゲノムが細胞社会を支配する戦略を読む。

第11回

1月15日(月) 細胞社会を支配する「リング」の正体
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第12回

1月22日(月) 母性遺伝の原理「父の遺伝子崩壊」
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第13回

1月29日(月) ゲノム科学の先にあるもの
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