<よむ・かく>は、記憶・思考・認識の基本的な身ぶりである。今日では、コンピュータもロボットも<よむ・かく>活動を行っているし、ヒト、動物、生命が、いかに<よむ・かく>活動を行っているのか、多様な学問領域で研究が進められている。

 本講義では、人文学から情報科学まで、ロボット学から認知科学・脳科学まで、文字学・書物学から情報デザイン学まで、知の先端領域を拓きつつある講師陣を迎えて、<よむ・かく>活動をめぐる<新しい知識学>の姿を皆さんと探ってみようと思う。

よむ・かくとは何か?(全体イントロダクション)

第1回  10/14

石田英敬 (教養学部/附属図書館副館長)

<よむ・かく>はリテラシーという知の基本となる人間の活動である。長い間、人間の知は、「書物」をメディアとする「文字」リテラシーによって成立してきた。しかし、今日では、狭義の文字や書物を超えた技術が知を生み出すようになった。この講義では、こうした新しい知識技術が提起している「新しい知識学」の問題を各講師と共に考えていきたい。第1回目は、新しい知識学の問題群への導入をはかる。

脳がよむ・かく

第2回 10/21

酒井邦嘉(教養学部)

言語の脳科学に基づき、「読字」や「読書」を脳の特性という観点から考える。言語情報処理、記憶への定着、思考力など、高次脳機能の観点からみたとき、「紙」あるいは「電子」における読書と脳の関係とはどのようなものであるかを議論する。

建築をよむ・かく

第3回 10/28

川添善行(生産研)

限られた材料を用いて、適切に場を構築する術である建築は、言い換えれば、単語と文法を駆使して世界を記述する文体を有している。東大新図書館計画等、建築をより理解するための、あらたな読み書きの経験について論じる。

文字をよむ・かく

第4回 11/4

齋藤希史(教養学部)

「文字とは何か」について、表語文字としての漢字の成立と機能、そして日本における文字環境、さらに言語における音声と書記の原理的関係から考える。

大学がよむ・かく

第5回 11/11

宮川繁(MIT/大総センター)

大学は、最近まで閉鎖的な所であった。2001年にマサチューセッツ工科大学がオープンコースウェアなどを立ち上げ、全学の授業の教材にだれでも無料でアクセスできるようになり、大学のオープン化が始まった。近頃はMOOC(ムーク、大規模公開オンライン講座)によって、このオープン化が急速に広がっている。オープンエデュケーションといわれる時代の大学、教員、学生、また社会の役割はどう変わるのだろうか。

コンピュータがよむ・かく

第6回 11/18

石川正俊(工学部)

コンピュータの眼は、その高速性を極限まで高めることにより、人間の眼をはるかに超えた<よむ・かく>機能を実現することが可能となる。書籍の高速電子化、高速ジェスチャー認識、ダイナミックプロジェクションマッピング、人間調和型高速情報環境、インフラ設備の高速検査、知能ロボットの高速視覚制御等、最新の技術についてビデオを使って説明し、未来の<よむ・かく>を紹介する。

ロボットがよむ・かく

第7回 11/25

池内克史(生産研)

バーミヤンの大仏破壊や金閣寺炎上といったように仏像や寺院などの有形文化遺産は日々失われている。民族舞踊や民謡などの無形文化遺産も後継者不足や政治的意図により消え去りつつある。人類の貴重な財産である有形無形文化遺産をコンピュータが読み、記憶し、人間が理解できる形で再表現できれば、これらの文化遺産を永遠に保存することができる。さらにコンピュータの理解を通して、より深い解析も行うこともできる。本講義では、文化遺産のデジタル化、踊りロボットなど、コンピュータビジョンの観点から、「文化」を「よみ・かき」するコンピュータ技術の代表例について概観する。

本をよむ・かく

第8回 12/2

石田英敬(教養学部/附属図書館副館長)

紙と電子の両方で<よむ・かく>生活を私たちは今では行っている。そのとき改めて問われるのは、本とはいったいどのような技術なのかという問いである。書物というメディアの究極のあり方を追求したマラルメの文学に例をとりつつ、紙でも電子でも本が読まれるようになった「ハイブリッド・リーディング」時代の<よむ・かく>について考える。

アートがよむ・かく

第9回 12/9

藤幡正樹(東京藝術大学)

メディア・アーティスト藤幡正樹は、1995年に作品《Beyond Pages》を発表し、デジタル時代における本の未来、あるいは出来事へのインターフェイスとしての書物の本質を世に問うた。インタラクティヴ・アートの古典とされるこの作品から約20年間に、藤幡が作品を通じて深化させ、提起してきた問いとは何だったのだろうか。コーディネータ石田英敬と藤幡正樹とのダイアローグにより、文字、テクノロジー、イメージ、記号の問題をめぐりながら、メディア・アートにおける「よみ・かき」の問題を考える。

データをよむ・かく

第10回 12/16

喜連川優(生産研/国立情報学研究所)

IT技術が人間のあらゆる行為を「よみ・かき」するビッグデータの管理と処理のシステムは、いかにわれわれの社会を変容させつつあるのか?情報爆発時代が人類史にもたらすインパクトについて考える。

形をよむ・描く

第11回 1/6

山中俊治(生産研)

よく知っているはずのものでも、絵に描いてごらんと言われると、ほとんど覚えていないことに気がつくが、一度スケッチしたものについては、細部も立体構造もよく記憶される。スケッチは、物や空間の観察方法であり、観察された複雑な事象の中から特徴的な様態を簡潔に記述する方法でもある。その意味では決して写真のような転写ではなく、むしろ認識を抽象化した言葉に近いものである。そして、私たちが言葉を思考や伝達の道具として使うのと同じように、スケッチは、アイデアを確かめたり、人に伝えたりしながら創造活動を深めてゆく道具でもある。

生物がよむ・かく

第12回 1/13

佐々木正人(教育学部)

触覚情報は身体の張力と圧縮構造の分散に、視覚情報は眼を包囲している空気中にある。進化がもたらすこの生態情報の実在論の立場から、情報への間接的ガイドである表現について議論する。

知をよむ・かく

第13回 1/20

複数講師陣による総括ラウンド・ディスカッションをおこなう。これまでの講義を振り返りながら、各回の議論を重ねあわせ、「新しい知識学」を定式化する。